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海馬の基礎知識 1

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海馬の基礎知識
http://www.google.co.jp/gwt/x?source=m&u=http%3A%2F%2Fgaya.jp/research/hippocampus.htm&wsi=055008bd9f19fdd6&ei=RUPPT8jJH5SnkAWyutyfCQ&wsc=tb&ct=pg1&whp=30


1.はじめに

 海馬は哺乳類の中枢神経系のなかでももっとも詳しく研究されている脳領域の一つである。これには二つの理由がある。

 一つ目の理由は、解剖学的にも組織学的にも、ひと目でそれと分かる明確な構造をもっていることである。ヒトの「海馬(hippocampus)」はちょうど小指ほどの大きさになる。ギリシャ神話に登場する海神ポセイドン(ネプチューン)がまたがる海馬(4頭立ての馬車を引く架空の動物)の尾に形が似ていることから、ルネサンス後期のイタリアで活躍したボロ−ニャ大学の解剖学者アランティオ(Arantio)が、1587年にこの脳部位を「海馬(Hippocampus)と名付けた(ギリシャ語でHippoは「馬」を、Kamposは「海獣」を意味している)。海馬は雄羊の角に似ていることから別名として「アンモン角(Ammon’s horn)」と呼ばれることもある(エジプト神アンモンは羊の角を持っている)。海馬を神経科学者により魅力あるものにしているのは、しかしながら、その名前の巧妙さではなく、その解剖学的な形態構造にある。海馬の内部は美しい層を形成しているのである。つまり、神経細胞の細胞体と、その神経網のゾーンが層状に並んでいる。

 海馬は「海馬体(hippocampal formation)」とよばれる大脳辺縁系の一部である。海馬体は、歯状回(dentate gyrus)、海馬、海馬支脚(subiculum)、前海馬支脚(presubiculum)、傍海馬支脚(parasubiculum)、嗅内皮質(entorhinal cortex)に分けられる。このうち、歯状回、海馬、海馬支脚は、細胞層が単層であり、その上下を低細胞密度の層と無細胞層が挟んでいる。そのほかの部位は複数の層からなっている。とりわけ歯状回と海馬にみられる単純な層構造は、神経解剖学や電気生理学の研究進展に貢献してきている。

 海馬が魅力的である二つ目の理由は、1950年代前半ごろから海馬がある種の記憶や学習に基本的な役割を演じていることが認知されるようになったからである。とりわけ、1957年に出されたScovilleとMilnerの報告は神経心理学に重要な一石を投じた。これはHMというイニシャルをもつ患者の報告である。おそらくHMは神経心理学の分野ではもっとも詳しく検査された人物である。彼はてんかんの治療の目的で両側の海馬を取り除く手術を受けたが、その後、新しい情報を長期記憶に留める能力が永遠に欠如してしまったのだ。この発見を機に、海馬は、記憶・学習の脳内メカニズムを理解しようという風潮から、神経解剖学、生理学、行動学などの分野で盛んに研究されるようになった。現在では海馬と記憶の関係は疑いのないものとなっている。

 海馬はまたてんかん発作の感受性からも興味深い。海馬はもっとも発作閾値が低い脳部位である。ほとんどのてんかん患者は海馬が起始となった発作を示し、こうして海馬が焦点となった発作は、薬で治療するのが困難であることが多い。また、海馬体の一部分、とりわけ嗅内皮質は、アルツハイマー病でもっとも先に病変が現れるし、虚血や無酸素状態に高い脆弱性を示すのも海馬である。

 海馬は、解剖学的および機能的なその構造から、ほかの大脳皮質システムのモデルにもなっている。大脳皮質は最近5年ほどはよく研究されるようになってきてはいるものの、現在知られている中枢神経系のシナプス伝達に関する知見の多くは海馬体の研究に基づいたものである。海馬体に関する過去の知見の大多数は、歯状回か海馬を標本としている。そこで以下では海馬(それもラットの海馬)と歯状回について焦点を当てる。

2.海馬神経および回路構造の基礎知識

2−1 海馬の3次元的な位置づけと層構造

 海馬の立体的構造を図1に示した。巨視的に眺めると、海馬はバナナのように細長く延ばされた構造をしていて、その長軸方向がアルファベットのC字型に弯曲している。軸の吻側は中隔核(septum)付近から始まり、間脳を巻き込むように伸び、外尾側の側頭葉へと伸びている。海馬の長軸のことを「septotemporal軸」、短軸方向を「transverse軸」と呼ぶ。



図1 The Synaptic Organization of the Brain, Ed: Gordon M. Shepherd, Oxford University Press (2003)より

 海馬体に存在する各領域と層は図2に示した。歯状回は三層からなる。中心をなす層として「果粒細胞層(granule cell layer)」があり、すぐ上に位置するのが、細胞密度がきわめて低い「分子層(molecular layer)」、そして、下に位置する層は、細胞がまばらに見える「多形細胞層(polymorphic cell layer)」(または「門(hilus)」)である。海馬もまた「錐体細胞層(pyramidal cell layer)」と呼ばれる主要層があり、その上下にさらに細かい層(stratum)が走っている。これについてはまた後ほど述べる。
by kazutoshi_erena | 2012-06-06 20:56 | Comments(0)


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