図5 The Synaptic Organization of the Brain, Ed: Gordon M. Shepherd, Oxford University Press (2003)より 嗅内皮質の第Ⅱ層に存在する神経細胞は、「貫通線維(Perforant Path)」という通路を経由して、歯状回や海馬のCA3領域に投射している。貫通線維という名前は、軸索が海馬支脚を“貫いて”、軸索が投射していることに由来している。内側嗅内皮質の細胞は歯状回分子層の中間層に特異的に投射し、一方、外側嗅内皮質は分子層の外側三分の一の部分に投射している。これらの二種の貫通線維は、CA3やCA2の網状分子層にも同様な層状パターンを形成している。 嗅内皮質第Ⅲ層の神経細胞は、歯状回やCA3には投射せず、CA1や海馬支脚に投射している。この投射は層の構造があまり明確でなく、むしろ地理的に秩序を持って配置されている。つまり、外側嗅内皮質から来る軸索はCA1と海馬支脚の境界付近の網状分子層に投射しており、内側嗅内皮質はCA3寄りのCA1c網状分子層と、海馬支脚のうち前海馬支脚側の分子層に投射している。 歯状回は三シナプス回路の次のステップを担っている。歯状回は苔状線維を通じてCA3錐体細胞の近位樹状突起に投射している。果粒細胞はまた歯状回門の苔状細胞に投射し、この苔状細胞は、他のseptotemporalレベルにある歯状回(同側&対側)とシナプスを形成している。CA3錐体細胞は、CA1錐体細胞だけでなくCA3錐体細胞にも強い投射をしている。このうちCA1錐体細胞への投射軸索は「シャッファー側枝(Schaffer collateral)」と呼ばれている。CA1錐体細胞は嗅内皮質の深層(第Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ層など)と海馬支脚に投射している。海馬支脚もまた嗅内皮質の深層に投射している。そして、深層の嗅内皮質は、嗅内皮質に情報をもともと送っていた他の皮質領野へと投射している。こうして、特定の皮質領域から嗅内皮質へ入力された情報は、上に記したような興奮性の回路を通じて海馬全体を巡り、最終的に同じ場所に帰ってくることになる。情報はこの回路を巡回する間に加工され、この処理工程がおそらく長期記憶に情報を留めるために重要なのだと考えられる。 以上が、海馬体の基本的な神経回路網である。引き続き歯状回と海馬のシナプス組織をより詳細にみていく。 4.海馬のシナプス回路 4−1 歯状回のシナプス結合 歯状回の果粒細胞は、苔状線維という無髄軸索を伸ばしている(図6)。苔状線維はCA3に突入する前に、歯状回門で一本あたり平均7本の細い側枝を出している(Claiborne et al., 1986)。この側枝は大小二つの異なるタイプのシナプス瘤(synaptic varicosity)を持っている。0.5-2 μmほどの小さいシナプス瘤は苔状線維一本あたり約160個ほど存在し、歯状回門の介在細胞のスパインや樹状突起と接触している(Claiborne et al., 1986)。そして、側枝の終端部には、3-5 μmほどの大きなシナプス瘤が、通常一つだけ付いている。これは不規則な形をした膨潤で、形態がCA3野の苔状線維シナプス終末と類似している。歯状回門に見られる巨大な終末は、苔状細胞の近位樹状突起や、錐体籠細胞の基底樹状突起、そのほかの細胞とシナプス接合を作っている(Ribak and Seress, 1983; Ribal et al., 1985; Scharfman et al., 1990)。Acsadyら(1998)は、苔状線維一本は7-12個の苔状細胞とシナプスを作っていることを示している。さらに驚くべきことに、苔状線維の側枝や巨大シナ プスから出る糸状仮足(filopodia)の大多数が、介在細胞に投射しているということである。実際、歯状回や海馬のパルバルブミン(parvalbumin)陽性介在細胞に投射する興奮性シナプスの95%は、苔状線維由来である(Seress et al., 2001)。 図6 The Synaptic Organization of the Brain, Ed: Gordon M. Shepherd, Oxford University Press (2003)より すでに述べたように、果粒細胞層の近くに存在する籠細胞にはたくさんの種類が知られている。すべての籠細胞は果粒細胞層に非常に綿密な軸索叢を形成している。これは果粒細胞の細胞体や樹状突起の軸に見いだされ、終末はGABAを含んでおり、対称性シナプスであるので、おそらく抑制性の入力である(Kosaka et al 1984)。歯状回門のGABA性神経もまたGABA性入力を受けている(Misgeld and Frotscher, 1986)。籠細胞一つの影響力はどのくらい大きいだろうか。ゴルジ染色法を用いた解析によれば、籠細胞の軸索網はtransverse軸に400 μm、septotemporal軸には1.1 mmほど広がっているという(Struble et al., 1978)。すなわち、籠細胞は一個で相当な数の果粒細胞を神経支配していると想定される。 果粒細胞に入る二つめの主要な抑制入力は、分子層に存在する軸索軸索間細胞(またの名をシャンデリア細胞(chandelier-type cell)という)からのものである(Kosaka, 1983; Soriano and Frotscher, 1989)。この細胞もまた対対称性シナプスを形成するが、投射先は果粒細胞の軸索起始部のみである。歯状回門全体にわたってまばらに存在するソマトスタチン(somatostatin)陽性細胞もまた歯状回の内部でのみ投射する細胞である(Morrison et al., 1982; Baks et al., 1986)。この細胞はGABAを含んでおり、分子層の外側の部分で神経叢を作っている。つまり、果粒細胞の遠位樹状突起でシナプスを作っており、そこで果粒細胞の活動をコントロールしている(Freund and Buzsaki, 1996)。この細胞の標的の76 %は果粒細胞であるが、そのほかの介在細胞にも強く投射しているようである(Katona et al., 1999)。 分子層の内側三分の一の部分に見られるシナプス入力はすべて歯状回門からのものである(Blackstad, 1956; Laurberg and Sorensen, 1981)。この投射は同側だけでなく対側の歯状回にも由来しているので、同側連合交連投射(ipsilateral associational-commissural projection)と呼ばれている。この投射は苔状細胞の軸索側枝であると考えられている(Laurberg and Sorensen, 1981)。終末はほぼ非対称性シナプスであり、果粒細胞のスパインに投射しているので、興奮性であると思われる(Laatsch and Cowan, 1967; Kishi et al., 1980)。苔状細胞はグルタミン酸に免疫陽性であるので(Frotscher, 1993)、おそらく同側連合交連投射のシナプスもグルタミン酸作動性であろう。 苔状細胞は果粒細胞から強い投射を受けているので、その軸索はフィードバックのループを形成していることになるが、しかし、このループがあまり重要でないことを示唆する事実がある。果粒細胞は同じseptotemporal面内で苔状細胞に投射している。しかし、苔状細胞は同じ面内では果粒細胞には投射していない。むしろseptal側かtemporal側に投射している。つまり、苔状細胞は果粒細胞の出力を、septotemporal軸に沿って遠くの歯状回へと伝える役割をしているようだ。ただし、苔状細胞の長軸方向への投射の、本当の意味はまだ完全には分かっていない。さらに、同側連合交連投射は果粒細胞だけでなく、籠細胞の樹状突起軸にもシナプス結合をしている(Frotscher and Zimmer, 1983; Seress and Ribak, 1984)。したがって、同側連合交連投射は興奮性のフィードバック回路と同時に、フィードフォワード抑制として働いている可能性もある。さらにもう一つ、こうした議論に影響する因子がある。それは歯状回門のソマトスタチン細胞である。この細胞は苔状細胞よりも、さらに空間的に局在した神経投射をしている。従って、苔状線維の側枝がソ マトスタチン細胞を活性化させると、それは同じseptotemporal面内で、より直接的に果粒細胞を抑制することになる。つまり、同側連合交連投射による興奮制御は、より遠くの歯状回に限定されるようになる。いずれにしても、同側連合交連投射が主に影響を与える果粒細胞がある程度離れた細胞であるという事実は、従来しばしば言われてきた、海馬が層内(つまり海馬バナナのスライス内で)でのみ情報を処理するという仮説と矛盾することは確かである(Amaral and Witter, 1989)。 4−2 嗅内皮質からのシナプス入力 歯状回への主要な入力は嗅内皮質からのものである。この投射の主な特徴はすでに述べた。歯状回への投射は主に嗅内皮質の第Ⅱ層から起始している(Steward and Scoville, 1979; Schwartz and Coleman, 1981; Ruth et al., 1982, 1988)が、わずかに第Ⅳ〜Ⅵ層の深層から起始するものも存在する(Kohler, 1985)。貫通線維の終末は歯状回の分子層の外側(表層側)の三分の二の層に限局し、そこで非対称のシナプスを作っている(Nafstad, 1967)。その多くは果粒細胞のスパインに見いだされるが、一部、籠細胞に投射するものもある(Zipp et al., 1989)。分子層の外側三分の二に存在するシナプスの少なくとも85%は貫通線維シナプスであり(Nafstad, 1967)、おそらくグルタミン酸作動性である(Fonnum et al., 1979)。また貫通線維のうち、歯状回に投射するものについて言えば、外側貫通線維はエンケファリン(enkephalin)陽性であり、内側貫通線維はCCK陽性であることがわかっている(Fredens et al.,1984)。
by kazutoshi_erena
| 2012-06-06 21:08
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