図3 The Synaptic Organization of the Brain, Ed: Gordon M. Shepherd, Oxford University Press (2003)より 海馬錐体細胞の細胞体は、錐体細胞層の厚みの方向に3〜6個ほど同じ向きに並んでいる。錐体細胞は、細胞体層を挟んで両方向に樹状突起を伸ばしているため、「多極細胞(multipolar neurons)」と呼ばれることもあったが、この名はあまり一般的でない。尖端樹状突起(apical dendrite)は、細胞体の頂点側(錐体細胞は円錐形をしている)から起始し、海馬の中心方向(つまり歯状回側))へ伸びている(図3)。CA3野ではこの樹状突起は、透明層(stratum lucidum)、放線状層(stratum radiatum)、網状分子層(stratum lacunosum-moleculare)の三領域を縦に貫いている。逆に、より短い基底樹状突起(basal dendrite)は細胞の底辺から上昇層(stratum oriens)に伸びている。 海馬は二つの主要な部位にはっきりと分けることができる。歯状回に近い側である、大きな細胞がある領域と、遠い側であるより小さな細胞のある領域である。Ramon y Cajal(1911)は、これら二つの領域をそれぞれ「regio inferior」「regio superior」と名づけたが、Lorente de No(1934)は、海馬をCA3、CA2、CA1の三つに分けた。彼はCA4という言葉も使ったが、これは歯状回門に相当し、今ではCA4という言葉はラット脳では使われない。Ramon y Cajalの分類ではCA3野とCA2野がregio inferiorに相当し、CA1野がregio superiorに相当する。CA3野とCA1野に存在する錐体細胞は、細胞の大きさだけでなく、神経回路網も異なっている。CA3野の錐体細胞は歯状回から苔状線維からの入力を受けているが、CA2野とCA1野の錐体細胞の受けていない。 CA2領域は誤解を与えやすい部位である。Lorente de Noによって定義されたように、CA2はCA3とCA1に挟まれた狭い領域であり、CA3錐体細胞のように大きな細胞体を持つにもかかわらず、CA1錐体細胞と同じく苔状線維からの入力を受けていない。CA2は解剖学的にも機能的にも海馬のそのほかの部位とは異なる。たとえば、CA2はCA3やCA1に比べ、てんかん発作による細胞死がそれほど起こらず、時には「抵抗区域(resistant sector)」とさえ呼ばれることもある(Corsellis and Bruton, 1983)。 興奮性入力はスパイン(spine)の上にシナプスを作るが、錐体細胞の樹状突起はスパインに覆われている。とりわけ、苔状線維がシナプスを作るCA3錐体細胞の近位樹状突起にある「棘状瘤(thorny excrescence)」は、神経系でもとりわけ巨大なスパインである。棘状瘤は複雑に枝分かれしており、棘状瘤一個は苔状線維ボタン一個で覆われている。この他のCA3錐体細胞のスパインと、CA1錐体細胞のスパインは標準的な(つまり大脳皮質に似た)スパインを作っている。スパインは興奮性の非対称シナプスを形成している。 海馬錐体細胞の樹状突起の定量的な解析によれば、CA3神経細胞の樹状突起は個々にかなりばらついていることが分かる(Ishizuka et al., 1995)。歯状回に近い場所にあるCA3c野の錐体細胞は、樹状突起の総計長が短く、CA1に近づくほど長くなる。CA1錐体細胞では場所によらず樹状突起はほぼ一定で、平均すると全長は約12,000〜13,000 μmである(Ishizula et al 1995; Megias et al., 2001)。Migialら(2001)は、平均的なCA1錐体細胞は興奮性入力を30,000、抑制性入力を1,700ほど持っていると見積もっている。抑制入力は尖端樹状突起の近位に多く、スパインを介さずに軸(shaft)に直接入力している(Papp et al., 2001)。 錐体細胞層以外の層にある神経細胞は介在神経(インターニューロン、interneuron)と推定されるが、必ずしも当てはまらない場合もある。たとえば、Gulyasら(1998)は、CA1放線状層に大きな細胞を見出している。この細胞は樹状突起にスパインを有しており、軸索は海馬采(fimbria)に向かい、ミエリン化されていて太い。 2−3 介在細胞(インターニューロン) 介在細胞(または内因細胞)は古来、局所に集中した軸索叢(plexus)を持ち、GABAを放出し、樹状突起にスパインがない神経細胞として定義されている。細胞標識法や記録法などが進歩し、介在細胞は従来考えられていたよりもはるかに多様であることがわかり、伝統的な定義だけでは、どれも必ず例外が現れてしまう(Buckmaster and Soltesz, 1996)。ただ実際のところ、歯状回や海馬の介在細胞のほとんどは、シナプス標的を局所に持ち、スパインを欠き、GABA性である(Freund and Buzsaki, 1996)といって間違いない(図4)。 歯状回のもっとも重要な介在細胞は錐体籠細胞(pyramidal basket cell)である。この細胞は果粒細胞層と歯状回門の境界付近に存在し、果粒細胞の細胞体に投射している。籠細胞には少なくとも5つの亜種が存在する(Ribak and Seress, 1983)。分子層にも介在細胞が存在する。その中でおそらくもっとも興味深い細胞種は、軸索軸索間細胞(axo-axonic cell)であろう。これは、軸索が果粒細胞の軸索起始部に投射するのでこう呼ばれている(Kosaka, 1983)。歯状回門にも多種の介在細胞が存在する。歯状回門の中だけに投射する介在細胞もあれば、果粒細胞層や分子層に投射する介在細胞もある。この中に苔状細胞(mossy cell)と呼ばれる介在細胞がある(Amaral, 1978)。これは興奮性細胞であり、同側および対側の歯状回の分子層だけに投射する。これを“興奮性介在細胞”などとよぶ研究者もいるが、両側の海馬に投射するその長い軸索は、いわゆる介在細胞の“古典的定義”には反する。実際に、苔状細胞は局所的に投射すると言うよりも、歯状回のseptotemporal方向の遠くに投射する傾向がある。したがって、苔状細胞は、 伝統的な意味では、介在細胞の定義にも主要細胞の定義にも属さないことになる。 図4 The Synaptic Organization of the Brain, Ed: Gordon M. Shepherd, Oxford University Press (2003)より 海馬の介在細胞も、存在する場所やシナプス標的によって、大きく3つのグループに分けられる。すなわち、軸索軸索間細胞、籠細胞、重層状細胞(bistratified cell)である。その名前が示すように、軸索軸索間細胞は、錐体細胞の軸索起始部にシナプスを作っていて、活動電位の開始に強い影響を及ぼしている。籠細胞は錐体細胞の細胞体にシナプスを形成している。一つの錐体細胞に対して多重にシナプスを形成しており、その神経網が錐体細胞の細胞体を包む“籠”のようになっていることからこの名が付いている。最後の重層状細胞は、錐体細胞の尖端樹状突起と基底樹状突起の両方に投射している。つまり、この三種の介在細胞の軸索出力の標的には領域的にほとんど重なりはないが、樹状突起については、三種いずれも放線状層や上昇層に投射しており、シャッファー側枝(Schaffer collaterals)や交連・連合線維(commissural-associational fibers)や、近傍の錐体細胞からの局所入力を受けているようである(Buhl et al., 1996; Halasy et al., 1996)。また、介在細胞同士の間に、相互に抑制を掛ける回路が存在することもわかっている。相 互抑制回路は、介在細胞の活動を同期させ、シータ波(5 Hz)やガンマ波(40 Hz)など、様々な周波数の振動(oscillation)を発生させる役割をしていると考えられている(Jefferys, 1996)。多くのGABA性介在細胞は、同時に神経ペプチドを含んでおり、時には放出することも知られている。 3.海馬体の基本的な回路構造 海馬体のおおまかな神経回路はRamon y Cajal(1911)の時代から知られているが、その詳細は最近の研究によって解明されたものである(図5)。Andersenら(1971)は海馬体の各部位を一方向につなぐ特徴的な回路の重要性を主張し、これを「三シナプス性回路(trisynaptic circuit)」と名付けた。感覚情報の多くは嗅内皮質を通じて海馬に流れ込むので、嗅内皮質を三シナプス性回路のスタート地点と考えることが多い。嗅内皮質は、隣り合った二つの皮質領域から情報を受信している。すなわち、嗅周囲皮質(perirhinal cortex)と嗅後部皮質(postrhinal cortex)(霊長類では海馬傍回(parahippocampal cortex)と呼ばれる)が、複次的な感覚情報を嗅内皮質にリレーしている(Burwell, 2000)。この入力の多くは興奮性である(Martina et al., 2001)。膨大部後方皮質(retrosplenial cortex)もまた感覚情報の源となっているらしい(van Groen and Wyss, 1992, Wyss and van Groen, 1992)。
by kazutoshi_erena
| 2012-06-06 20:57
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